東京大学 大学院情報学環 藤本研究室
Monthly archive: May 2024
post date and time: 2024-05-31 contributor: snii
2025年度入試に向けて、5月20日(月)17時より藤本研究室を希望する方を対象とした説明会をオンラインで開催しました。全体に向けた説明と質疑応答部分の動画をYouTubeで公開しています。
当日参加できなかった方も、参加したけどもう一度聞きたいという方も、ぜひ動画をご覧いただき、出願を検討する際の判断材料の一つにしていただければ幸いです。
埋め込み動画が上手く表示されない方は下記のリンクを参照してください。
https://youtu.be/aiDuqSH4Yq4
post date and time: 2024-05-30 contributor: osora
こんにちは、M2の大空です。
今週はゲストセッションとして、福島真人先生にお越しいただき、「ハイリスク環境での学習」というテーマで、ディスカッションを行いました。
福島先生には、とても刺激的な発表を行っていただき、新たなアプローチで自分たちの研究分野および研究テーマを考えるきっかけになりました。
本記事では、その内容を少しご紹介できればと思います。
福島先生の発表では、切り口の一つとして「正統的周辺参加」を提示していただきました。
正統的周辺参加とは、社会的な実践共同体への参加の度合いを増すことが学習であると捉える考え方のことを指します。
この考え方には、課題として、現場(特にハイリスク環境)では、学習に必要な「ゆとり」「タイムリーな教授」「失敗への寛容」がないため、人は学べないのではないか?という指摘があります(ベッカーの難問)。
しかし、「正統的周辺参加」における、その周辺には、実験的施行が可能になるような領域があるのではないかという議論も同様にあります。
福島先生は、これを”学習の実験的領域”と呼んでいます(著書『学習の生態学』でもご紹介しています)。
より具体的に、この学習の実験的領域を成り立たせるためには、3つの制約を取り除く必要があるとされています。
①時間的制約
現実では実験的試行を十分に行う時間がない
②経済的制約
試行そのものやそれによる失敗にはコストがかかる
③法的制約ー免責構造
責任を免除して失敗を学習資源として活用できない
これらの点をクリアする手法として、リスクの高い多くの組織が導入しているのはシミュレーションによる教育です。
擬似的な空間で学ぶことは、現実ではできないような失敗も許容されることが大きなメリットで、これはゲームにもつながる話題だと感じました。
もちろん、シミュレーションやゲームでの学びと現場で活動にギャップはあります。とはいえ、これらの学びが意味ないわけではないと思います。
この感覚を言葉にして体系的にまとめたいなと感じたため、次回の発表では、本ゼミでの福島先生のお話を踏まえ、自身が考えたことをゲーム学習と結びつけつつ、アウトプットしたいと思います!
改めて今回、福島先生には、大変貴重なお時間をいただき、素敵な発表および対話を行っていただきました。私自身、本分野でのモチベーションがさらに高まるきっかけとなりました。
こうした機会をいただけていることに感謝しつつ、積極的に経験を活用していこうと思います。
今週のゼミ報告は以上となります。では、また来週!
P.S.
ゼミ終了後に、みんなでご飯を食べに行きました!
post date and time: 2024-05-24 contributor: qikeyi
みなさん、こんにちは!今年からLudix Labに入りました研究生の斉可意と申します。
今週は、斉による文献研究・犬田さんによる文献研究・大空さんによるプレイセッションの3本立てでした。
斉:文献研究
この論文を紹介しました:
Perttula, A., Kiili, K., Lindstedt, A., & Tuomi, P. (2017). Flow experience in game based learning–a systematic literature review. International Journal of Serious Games, 4(1), 57–72.
この論文は、過去10年間のゲームベースの教育に関するフロー理論の研究レビューです。フロー理論の研究計画を改善したいと思い、この論文を参考に選びました。この論文には具体的な例が非常に豊富に含まれており、フロー理論の研究は主に以下の側面に焦点を当てていることが明らかにされています:
1.シリアスゲームの文脈におけるフローの意味
2.フローと学習の関係
3.フローの発生に影響を与える要因
4.フローの具体化の方法
この論文は19件の実証研究を収録し、比較に重点を置いています。この論文を通じて、研究者たちがフローのレベルを定量化する方法には多くの違いがあり、現在のところ統一された枠組みがないことを認識しました。そのため、研究を進める際には適切な選択を行うことが重要です。
今後も関連する実証研究を読み続け、研究計画を改善し、ゲームデザインとフロー体験の関係を探求していきます。
犬田さん:文献研究
「ゲームデザインバイブル第2版」の第17章と第20章を紹介しました。この本は、ディズニーVRスタジオの元クリエイティブディレクターで、テーマパーク用アトラクション、MMORPG、VR、シリアスゲームなど、さまざまなゲームの開発を経験してきたトップクリエイターによって書かれたゲーム開発の指南書です。
犬田さんは、この論文を読んでゲーム開発に必要な前提知識を学びたいと思っています。最も重要な収穫は、「ゲームデザイナーの目標は、ゲームデザインをすることではなく、体験を創り出すことである」ということです。
第17章「ストーリーも体験の一種」では、2つの異なる開発手法が紹介されています。パールのネックレス(川と湖)の手法で成功する秘訣は、「事前に一本道のストーリーを作っておくストーリーマシン」です。一方、ストーリーマシンの手法で成功する秘訣は、「事前に用意するストーリー部分を最小限に抑える」ことです。
また、文章は夢のゲームデザインの問題点も紹介し、これらの問題に対するいくつかの提案を行っています。
第20章「世界にはキャラクターが含まれる」では、ゲームキャラクターの種類や特徴、魅力的なキャラクターの創造方法、さまざまなキャラクターの関連性を利用して世界を充実させる方法などが主に紹介されています。犬田さんは、キャラクターを創造するための10のヒントを挙げました。
皆さんは犬田さんが持ち込んだ内容に非常に興味を持ち、細部について多くの議論を展開しました。
大空さん:プレイセッション
大空さんが企画した協力交流ゲーム【プレゼンテーションを考え、実践するワークショップCommand L&R】が開催されました。
参加者は二人一組に分かれ、大空さんが提示したテーマに基づいてプレゼンを準備します。まず、プレゼンの感情スタイルを選ぶためにエモーションカードから選択し、次にロジックカードで提示されたヒントに基づいてプレゼン内容を書きます。最後に、ロジックを整理してミニプレゼンを行います。
スコア集計の段階では、各人が「logic」と「emotion」という名前の票を持ち、最優秀のプレゼンチームを選びます。
このゲームでは、「藤本研のここがすごい!」というテーマに沿ってプレゼンテーションを行います。
莫さんと犬田さんが情熱的な猫のコンテンツで全参加者の「エモーション」票を獲得し、藤本先生と木村さんは充実したロジック内容で一歩及ばずとなりましたが、敗れても名誉あると言えます。
ゲーム終了後、参加者からはゲーム内容について多くの提案がありました。ゲーム内のヒントカードのデザインが非常に素晴らしいと考えています。プレイヤーが「point」から出発し、「reason」と「sample」を探すことで発言内容を見つけるというこの方法は、非常に面白い活動です。
以上が5月16日ゼミのご報告となります。ここまでお読みいただきありがとうございました。
post date and time: 2024-05-17 contributor: inuda
みなさん、こんにちは!M2になりました犬田です。
今年は東京の桜の名所に行って花見をしようと決意していたのですが、気がついたらすべて散っていました。悲しいです。あと、就職活動も無事終了しました。
さて、5月9日に行われたゼミ活動の報告をします。発表内容は、莫さんの関連論文紹介とジョナさんの文献研究です。
■【莫さん】関連論文紹介
莫さんは、以下の2つの論文を紹介されました。
①Folz, H. N., Black, J., & Thigpen, J. (2023). Evaluation of a murder mystery activity to teach patient communication interviewing skills. Currents in pharmacy teaching & learning, 15(6), 581–586.
②Kavanaugh, R., Pape, Z., LaTourette, B., & Lehmier, S. (2022). Who killed Mr. Brown? A hospital murder mystery in a pharmacy skills course. Medical teacher, 44(10), 1151–1157.
2つの論文はどちらも、マーダーミステリーゲームを用いて医学生のコミュニケーション能力を向上させることを目的としています。研究結果としてはどちらも、医学生がコミュニケーションスキルを学ぶ上で、マーダーミステリーゲームが効果的であることを示唆していました。ただ、どちらの文献にも、マーダーミステリーゲームの定義や学習効果を高めるメカニズムについての言及がなかったので、今後行っていきたいと仰られていました。
発表の後のディスカッションでは、患者の症状から病気を特定する行為や限られた情報から死因を推測する行為は、与えられた情報から犯人を推理するようなマーダーミステリーゲームと相性がよいという意見が出ました。与えられた情報から何かを推測する活動とマーダーミステリーゲームを組み合わせることで、意義のある体験を生み出すことができるのではないだろうかと思いました。
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■【ジョナさん】文献研究
ジョナさんは、今年2024年3月に発売された藤本先生が編著の「シリアスゲーム」の「第3章 シリアスゲームのデザイン」を紹介されました。第3章は、情報学環にいらっしゃった池尻良平先生が執筆を担当されています。第3章では、シリアスゲームのデザイン論、特に学習領域に合わせたゲームデザイン論について、多くの事例とともに説明されています。
本書ではまずゲーム学習のフレームワークとして、スタールダイネン&デフレイタスの「ゲームをベースにした学習のフレームワーク」が紹介されています。このフレームワークは、「学習→インストラクション→評価」の3段階で構成されています。個人的には、2段階目のインストラクションにおいて、ゲーム要素を「文脈、表現、教育学、学習特性」に分けているところに面白さを感じました。
また、学習に効果的なゲーム要素として、「競争」、「協力」、「探究発見」などが紹介されていました。そして、学習領域に合わせた効果的なシリアスゲームのデザイン手順として以下が提案されていました。
1.学習領域ならではの目的、要素、キー概念を発見する
2.キー概念との親和性の高いゲーム要素を同定する
3.キー概念を絡めたメインルールをデザインする
4.学習を促す追加ルールをデザインする
5.シリアスゲーム外の学習をデザインする
感想としては、一般的なゲームデザインの指南書を読むだけでなく、開発するジャンルに特化したゲームデザインの本を読むことで、より適した思考法やデザイン手法を学習することができるなと改めて思いました。
以上が、5月9日のゼミ活動報告です。ぜひ来週のゼミ報告記事をお読みください。
それでは!
post date and time: 2024-05-02 contributor: hamada
こんにちは、M2の濱田です。あっという間に学年が上がっていました。
では、今週のゼミ報告です。
今週は、濱田による事例研究・大空さんによる事例研究・夏休みの出張ゼミ企画検討セッションの3本立てでした。
今回の事例研究では、「トド英語」というアプリを紹介しました。このアプリは、動画や本、ミニゲームなどを使いながら英語を学ぶというもので、すべてクリアすると幼稚園~小学2年生レベルの英語をマスターできるとのことです。私はMinecraftを使った英語学習をテーマに、英語コミュニケーションが促進されるようなワークショップの開発をしているのですが、「トド英語」で使われている手法がワークショップでの英単語の導入などに使えるのではないかと思い、事例研究の対象としました。
今回の事例研究で、学習対象の単語に繰り返し触れること、そして綴りを画像や動画とともに学習することの2点が重要で、それはどちらもMineecraft上で実現可能であるとわかりました。
ここまでが事例研究の目的でしたが、研究室メンバーからのフィードバックで議論が進み、ワークショップにゲーミフィケーションの要素をどのように入れることができるかにまで話が広がりました。今後の研究のためになる発表となり、とても良かったです。
大空さんも事例研究として、『フードデザイン 未来の食を探るデザインリサーチ』という書籍を紹介していました。この書籍の中で『キャット&チョコレート』というゲームの事例が取り上げられており、それがどのように大空さんの研究に活かせそうかという観点から発表してくださいました。
大空さんは、疑わしい研究行為に関する新たな事例を作るために、『キャット&チョコレート』の手法を用いるとのことでした。このゲームは例えば、「大きな岩が転がって来た」といった非日常なお題に対して、「ガムテープ」や「マッチ」といった与えられた選択肢を使ってどのようにうまく乗り切るかを考えるゲームです。
この手法をとりいれることで、普段であれば思いつかない斬新なアイデアが期待できるそうです。これは「ジェネラティブ・リサーチ」と呼ばれます。
また、「なぜなぜ5回」という人の行動の背後にある理由を掘り下げて根底に潜む重要な理由を明らかにする手法や、「What ifシナリオ」という「もし~したらどんなことか?」のようなあらゆる事態を想定し、システムがうまく構築されているかを確かめる手法も研究に取り入れるとのことでした。
このような事例をふまえて、最後に大空さんの今後の研究の方向性について発表してくださいました。
企画検討セッションでは、夏休みに行う出張ゼミ企画について検討しました。
今年度は、長崎や大阪で研究室メンバーの発表の機会が設けられるそうです!研究室メンバーはそれぞれやりたいことが決まっており、とても有意義で楽しい企画になるのではないかと思いました!
今週のゼミ報告は以上となります。では、また来週!
post date and time: 2024-05-02 contributor: jona
皆さん、お久しぶりです!研究生のジョナです。
木曜日は晴れ渡った天気になり、駅まで自転車で走るのがとても気持ちよかったです。
今回の記事で、まずサブゼミについて少しご紹介できればと思います。
今学期より木村先生から、研究に必要な統計法やデータ収集法、またゲーム教育論に関連する知識を教える学びの場としてサブゼミを開講してくださいました。
オリエンテーションの後、科学とは何かという内容から始まりました。科学は:実証性、論理性、再現性、反証可能性がある必要があります。研究を行う上であれば、それらの性質が自身の研究に揃われているかを常に問い続けなければなりません。
サブゼミは学習だけでなく、振り返りや討論の場としてもありがたい機会だと思いました。
以上簡単な紹介となりますが、今後のサブゼミがとても楽しみです。
さて、ここからゼミのご報告に入りたいと思います。
本日のゼミでは、莫さん、斎さんの研究計画発表と大空さん、犬田さん、ジョナの研究進捗報告でした。では発表順にご報告いたします。
研究生 ジョナ
私は春休みに自身の研究テーマを見直しました。継承語教育では、学習者がコミュニティーベースで学習を行うことが多いため、子供たちが興味を持つのが難しいなど、様々な課題が存在します。私はゲームを通して、どのように継承語の教育現場を支援できるかに関心を持っています。
当初はデジタルゲームの設計を考えていましたが、それが実際の学習現場のニーズに適合するかどうかについて疑問を持ちました。その結果、アナログゲームの方が試行錯誤を繰り返しやすく、改善しやすいかと考えるようになりました。これから解決すべき課題や決めるべきものは多くありますが、体験や学習を通して視野を広げ、理解を深めていきたいと思います。
研究生 斎さん
斎さんはFlowの研究に深い関心を持ち、特定のゲーム要素がどのFlow要素と対応するかを、具体的なゲーム事例を基に研究したいと考えています。現時点では、「Baba is you」と「Keep Talking and Nobody Explodes」の二つのゲームを事例として取り上げることを検討しています。
「baba is you」は広く知られたインディーゲームで、そのゲームシステムはプログラミング思考にも関連しています。斎さんはこの要素を活用し、対象学習者の学習を促進する方法を探求しています。一方、「Keep Talking」は、二人で協力して爆弾を解除することを目的としたゲームで、論理的思考や協同作業などを学ぶことが期待されるようです。
斎さんが取り組んでいる研究からはゲームの要素とFlow体験の関連性を深く理解したいという強い思いを感じました。
M1 莫さん
莫さんは、Murder Mystery Game(MMG)を活用して、チームベース学習(Team-Based Learning)を向上させるゲーム設計について研究しています。前回の記事でも紹介されたMMGは、近年非常に人気があり、多くの人々が楽しんでいるようです。
MMGは、形式的には人狼ゲームに似ていますが、独自のシナリオとロールプレイング要素によって、より深い没入感を体験できるゲームです。共有知識(Shared Knowledge)と非共有知識(Unshared Knowledge)の差を利用して、チーム内の交流を深めるという莫さんのアプローチは非常に興味深いと感じました。
M2 大空さん
大空さんからは研究進捗をシェアしてくださいました。QRPゲームを題材として、いろんなところで実践を行っているようです。
現在、生成AIの倫理について多くの場所で議論が行われており、今後大空さんの研究倫理ゲームでも取り扱うことがあるため、研究室で活発な討論が行われました。AIの進化とその利用、そしてその正しい利用は、人々がAIを活用するにつれて避けて通れない課題となっています。大空さんの研究は、研究の現場だけでなく、多様な分野での論理教育においても、重要な意義を持つと思いました。
M2 犬田さん
犬田さんからは進捗報告と今後の予定の発表を行いました。犬田さんはクラウドソーシングゲームの研究を行い、今後の研究でナーミアの自由意志を取り扱った内容を用いて、ゲームの具体的な開発に取り組む予定だとのことです。
Stable DiffusionやMidjourneyなどの画像生成AI技術を研究に活用し、この分野のゲームを新たな手法で拡張することを目指しています。
ゲームの画面や、完成したゲームがどのようになるのかをシェアしてくださいました。完成後のゲームが楽しみです。
以上が4月25日ゼミのご報告となります。ここまでお読みいただきありがとうございました。
最後に少しだけ、個人の活動報告として、ゲームマーケットに行った体験を共有したいと思います。
ボードゲームの大規模なイベントとして、ゲームマーケットでは多くのメーカーや個人開発者が出展していました。驚くほど多くのテーマやメカニズムを目にして、実際に遊ぶことで、ゲームの幅広さに改めて感銘を受けました。
平安時代の色や歴史上の戦争などを扱ったゲーム、また、ルールの大部分を自分で決定するゲームなどあり、いろんな方にも説明してもらい、充実な一日を過ごせました。文化や歴史をテーマにしたゲームも非常に多く、学びとのつながりも様々だなと感じました。
私は、「じゅもんじ」という文字遊びのゲームと「ワンナイト人狼-狂気ver」という少し変わった人狼ゲームを購入しました。早く遊びたくてたまりません!
今後もこのようなイベントに参加することで、ゲームとの接触を深めて行きたいと思います。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう!
楽しい毎日を!Bayartai!