東京大学 大学院情報学環 藤本研究室
Monthly archive: October 2024
post date and time: 2024-10-03 contributor: osora
藤本研究室M2の大空です。
今回の記事では、夏休みの活動報告の第二弾として、国際学会に付随して訪れた、アメリカ・カナダの研究所等の様子について、ご共有します。海外の研究事情にご興味のある方は、ぜひご覧ください。
人工知能・データサイエンス研究所(Institute for Artificial Intelligence and Data Science)
まず紹介するのは、人工知能・データサイエンス研究所です。こちらは、アメリカのニューヨーク州立大学バッファロー校にある研究所です。
元々、ゲーム学習だけでなく、AIにも興味があったので、海外の研究事情を肌で感じたく、見学ツアーに参加したのですが、アメリカでも最先端の研究所ということで、施設がかなり充実していました。施設は新しく、日々の研究空間と連続する構造で、外部の方を招いた実験も行いやすい設計となっていたのが印象的です。
また、研究所の中でも、私が特に興味を惹かれたのが、National AI Institute for Exceptional Educationという教育研究所です。ここでは、音声言語処理課題を持つ児童の教育サポートとして、AIテクノロジーを駆使した解決策を試みており、多数のアメリカ国内の大学と連携して研究を進めているようでした。
実際に、研究所内には、子ども達を招いて行動を観察できる空間が広がっており、本分野とゲーム学習の組み合わせについても、研究者の方々と話し合うことができ、貴重な時間を過ごせました。
遊び博物館(Strong National Museum of Play)
続いて、「Strong National Museum of Play」という遊びをテーマとした国立博物館のご紹介です。
遊びをテーマとした博物館と聞いても、なかなかイメージしづらいと思うのですが、科学館、キッザニア、ゲームセンター等が融合したような空間でした。
博物館内には、多数の遊び場やゲームが立ち並んでおり、一日あっても飽きないと思えるほど、充実していました。
また、当博物館では、ゲーム保存にも積極的で、ゲーム本体はもちろん、関連資料まで多数の実物が保管されています。ツアーに参加し、特別にその保管室を覗かせていただきましたが、日本のコンテンツも非常に多く、改めて日本が生み出したエンターテインメントの強みを実感しました。
遊びと学びの融合に関する研究を行っている身として、普段自分が考えている理想を具現化したような場でした。ぜひ同分野で研究されている方は、一度訪れることを強くおすすめします。
教育研究所(Ontario Institute for Studies in Education)
学会はアメリカのニューヨークで開催されたのですが、カナダのトロントが近いこともあり、こちらの教育研究所にも訪れました。
通称OISE(オイジー)と呼ばれる研究所は、トロント大学の教育系大学院です。本大学院には、Adult Education & Community Development Programという成人教育を対象としたコースが存在します。
私は大人に向けたゲーム学習をメインに研究しており、企業・大学で活動しているので、成人教育の学び場を見てみたいと思い、実際に施設内を見学させていただきました。
トロント大学には、多様なバックグラウンドを持った学生が多く、それらの背景を活かしたユニークな研究が多いということで、研究自体を目にすることはできなかったものの、情報をキャッチアップし、今後はよりグローバルな目線で研究することを決めました。
メディア論の聖地(Marshall McLuhan Tour)
最後に、教育研究所と同じく、トロント大学にあるメディア論の祖といわれる、マーシャル・マクルーハンの縁の地を訪れました。
マーシャル・マクルーハンの有名な言葉の一つに「メディアはメッセージである」があります。私は、この言葉をきっかけに、ゲーム学習で用いるゲームもメディアであると認識しました。
ゲームならではのメディア特性を活かした情報伝達、他のメディアではできないコミュニケーションを目指し、現在は研究・開発を続けているので、改めて自分の原点に立ち返るきっかけを得られました。
ゲームで学びことを一つの代表的なメディアにできるように、今後も尽力したいと思います。
以上、活動報告の第二弾となります。
今後は普段のゼミ活動に関する記事をUPしていきますので、ぜひそちらもご覧ください。
post date and time: 2024-10-03 contributor: osora
藤本研究室M2の大空です。
今回の記事では、夏休みの活動報告の第一弾として、自身が8月に渡航し発表を行った、国際学会の様子について、ご共有します。ゲーム研究の国際学会にご興味のある方は、ぜひご覧ください。
学会発表(Replaying Japan)
今回参加した学会は「Replaying Japan 2024」です。本学会では、世界中から研究者やクリエイターが集まり、日本のゲーム研究を中心に革新的な技術や方向性に関する発表が行われました。
今年は、8/19(月)〜8/21(水)の3日間、アメリカのニューヨークで行われ、過去最大規模での開催だったようです。初めての一人での海外渡航&国際学会でしたが、当日はたくさんの海外の研究者と交流でき、とても有意義な時間を過ごすことができました。
学会発表では、「ゲーム学習」という観点から、研究倫理教育に資するゲーム学習プログラムについて発表を行いました。
発表内容に関して、本学習プログラムで用いるゲームは、アナログゲーム形式なのですが、そこに新鮮味を感じて興味を持ってくださる人が多かったです。「頭に衝撃が走った」、「もっと世界に向けて発信した方がいい」など、かなりポジティブなコメントをいただけて、研究へのモチベーションが上がりました。
研究倫理というテーマは、世界共通ということもあり、各国の状況について知ることができたのも良かったです。やはり、どの国でも少々退屈、面倒くさいというイメージは変わらない一方で、研究倫理上の問題の捉え方は国の違いもあるのではないかと思いました。
また、ゲーム内容だけでなく、デザイン面についても「海外の人々が親しみやすいように多大な努力を払ったことがわかる」「とても美しくて興味が惹かれる」という声がいただけたのも嬉しかったポイントです。自分が意図していたことが、良い反応として返ってきたことは、自信になりました。
発表枠は2時間ということもあり、当初は無事終えられるかすら不安でしたが、実際に発表を行ってみると、海外の研究者の方々から沢山の好評をいただき、心から楽しかったといえる発表になりました。
その他の発表では、ゲーム文化、人工知能、ビジネス、教育といった幅広いトピックが並び、エンターテインメントの新たな可能性について考えるきっかけとなりました。これまでは、ゲーム学習を中心にゲームや遊びについて考えていましたが、今後はより俯瞰的に捉えていこうと考えています。
学会発表後は、これらの発表を行った研究者とパーティーで連絡先を交換し、彼/彼女らとは、今でもメールのやり取りを続けています。お互いの研究テーマについて、自国の研究事情や流行を共有し合える関係性を築くことができたのが、今回最も参加して良かったことでした。
以上、活動報告の第一弾となります。
次回の記事では、学会終了後を含む、3週間のアメリカ・カナダの滞在中に訪れた「AI研究所」「遊び博物館」「教育大学院」「メディア研究の縁の地」について紹介します。こちらも多くの学びがあったので、ご関心のある方は、ぜひご覧ください。
post date and time: 2024-10-03 contributor: ziminmo
皆さんお久しぶりです!M1の莫です。
夏休みの間、皆さんはいかがお過ごしでしたか。
先月の9月18日、関西学院大学梅田キャンパスで「ゲームの遊びと学びの未来シンポジウム in 大阪」が無事に開催されました。
それでは、記者としてこのイベントの様子を紹介させていただきます。
初めのセッションは「ゲームを作る&遊ぶ」から広がる学びの企画セッションでした。
岸本先生が、ゲームを遊ぶことをきっかけにした学びについて紹介しました。学びで得られる能力を自我コントロール力・ゲーム制作力・人生神ゲーム化力の三点に分けて様々な学生に対する授業と人材育成の事例を紹介しました。
小野先生は、現在の教育システムにおける傾向から、ゲーム制作教育の重要性と利点を指摘しました。ゲーム開発教育の高等教育機関における応用と、ゲームデザインの「遊ぶ→作る→他者に体験させる」という三段階モデルを紹介しました。また、ゲームデザインのコースが入院患者の心理状態を改善する事例や、ユーザーの反応を観察してゲームデザインを向上させる大学実習プロジェクトなどを挙げました。
先生たちの企画セッションに通じて、私はゲーム制作が子供向けの教育ツールだけでなく、全年齢層に学習の興味や主体性を引き出せるものだと深く感銘を受けました。また、ゲームは特定のグループの生活の質を改善するためにも活用できる可能性も感じました。
続いて、藤本先生、池尻先生、福山先生、小野先生の「新刊『シリアスゲーム』著者陣が語るシリアスゲームの現状と未来」のセッションが行われました。
このセッションでは、「シリアスゲーム」の構成や内容を紹介し、シリアスゲームが教育や社会問題解決における多重な可能性をどのように引き出すか、特にゲームデザインを通じて複雑な社会現象に対する理解を深める方法について深く議論をしました。
さらに、先生方はシリアスゲーム研究の展望を共有し、様々な技術の応用と伝統的なゲーム形式の活用についても触れました。シリアスゲームの要素は、観光業の促進や学校教育におけるインタラクションと参加の増加など、様々な分野に拡張可能です。これらの展望は、未来のゲームデザインが異なる分野のニーズに応じて不断に革新を求める必要があることを認識させてくれました。
私が特に感銘を受けたのは、シリアスゲームの開発・研究が政府や企業と連携し、社会問題に対応するためのシリアスゲームの活用について言及されたことです。これにより、ゲームは単なる娯楽ツールではなく、効果的な公共教育手段にもなり得ることに気づきました。また、産学連携を通じてシリアスゲーム効果を最大化できることも感じました。将来のゲームデザイン研究において、社会のニーズや教育目標をより良く結びつけ、実際に影響力のあるゲーム作品を作ろうと思います。
次に、莫と木村先生の研究発表でした。
私はマーダーミステリーゲーム(MMG)に関する文献レビューを紹介しました。発表では、MMGの定義・歴史・特徴・教育分野での応用について説明しました。1930年代からデザインされたMMGが、2016年に中国ゲーム市場で再流行した原因への分析により、教育における潜在能力が見えてきました。MMGは教育分野で大きな応用価値を示しているものの、その開発コストや時間の投資が高いため、今後は技術的手段を通じてシナリオ生成を最適化し、操作性をさらに向上させることが期待されています。
その次に、木村先生は未確立の分野である「ゲーム心理学」について紹介しました。この発表では、先生はゲーム心理学の定義や扱う範囲、確立するための要件について説明し、この分野が心理学だけでなく、人文学的なゲームスタディーズ、シリアスゲーム・ゲーミフィケーションなどをテーマとした研究との接点があるということを述べていました。
その後の質疑応答では、参加者から「ゲーム心理学とスポーツ心理学・ギャンブルの研究との違いは何ですか?」という興味深い質問がありました。先生はスポーツ心理学がフローやゾーン、ギャンブル研究がゲーム依存(ICDなど)といった用語の点でテーマが関連することを述べ、ゲーム心理学はそれらを包括する分野であると説明しました。このディスカッションを通じて、ゲーム心理学がゲームデザインと密接に関連しているだけでなく、他の研究分野に新たな視点を提供できることに気づきました。このことが、私の将来の研究方向に対する期待を抱かせ、ゲーム心理学の重要性を深く感じさせました。
また、隣の会場では大空さんさんと犬田さんがそれぞれワークショップも開催しました。自分の発表時間がワークショップと重なったため、参加できなかったのが本当に残念でしたが、ワークショップを皆さんと是非共有したいと思っています!雰囲気がとても良い感じです。次回はぜひ試してみたいと思います。
最後に、桃太郎電鉄教育版の事例研究シンポジウムが行われました。
まず、藤本先生がシンポジウムの概要と桃太郎電鉄教育版の利用状況調査結果について紹介しました。この結果は、教育におけるこのゲームの応用効果に対する興味を引き起こし、ゲームが単なる娯楽ツールではなく、学びを促進する重要なメディアであることを実感させました。
続いて、正頭先生による特別講演がありました。先生は、学校でゲームと教育が結びつく生き生きとした事例を挙げ、教育とゲームの繋がりの可能性を示しました。講演は、ゲームを効果的に授業に取り入れる方法についての思考を刺激し、新しい教育方法への期待を抱かせました。
最後に、藤井先生たちから授業実践事例の共有でした。実際の例を通じて、桃太郎電鉄教育版の多様性を実感し、このゲームが異なる科目や年齢層の学生に活用できることに目を見張りました。ゲームを活用することで、子供たちが遊びながら「学び」を試し、学びへの挑戦を通じて知識への態度が「嫌い」から「すき」になることができ、本当に「遊びながら学ぶ」ことを実現できるのです。