東京大学 大学院情報学環 藤本研究室
投稿日時: 2022-05-29 投稿者: haruguchi
こんにちは。M1の春口です。
先日行われたゼミ活動のご報告を致します。
事例紹介 大空さん
今回は「人事制度ゲーム」というボードゲームを紹介されました。
「人事制度ゲーム」は、企業の人事、人材育成担当者を対象として、チームに分かれてそれぞれのチームで社員の育成をしながら企業の利益を上げていくことを目指すゲームです。チームごとに企業の規模を変えることができ、大企業・中堅企業・ベンチャー企業の3つから選ぶことができます。人事制度を自分たちで作ることができるのが特徴で、ゲームを通して人材育成や人事制度について学ぶことができます。
今回の事例は、大空さんの研究計画に影響を与えたようで、研究対象者を学生として企業の人事制度などを学生のうちから理解することを目的としたゲームの作成という方向性も新たに視野に入ってきたようでした。先行研究から様々な気づきを得られていて、とても意義深い事例紹介となりました。
文献研究 叶さん
今回は「Gee, J. (2005). Semiotic social spaces and affinity spaces: From The Age of Mythology to today’s schools.」についての紹介でした。
内容はAffinity Spaceについて論じるものでした。Community of practiceという考え方を人のグループではなく、人が集まる空間から再考したものをSemiotic Social Spaces(記号的社会空間)(以下SSS) と定義し、SSSの特別な例がAffinity Spaceであるそうです。
SSSでは、その空間の中で人々が記号を得たり意味を与えたりします。論文ではそのための要素として、Generator(意味・記号を生成するもの)・Portal(記号へアクセスするための窓口)・Internal Grammar(記号のデザイン)・External Grammar(SSSと人のインタラクション)の4つが定義されています。
Affinity Spaceでは上記の4つに合わせて、メンバーがある共通のゴールに対して熱意を持っていることや暗黙知の利用が推奨されること、地位を獲得する方法が多岐にわたることなど11種類の条件が成立するそうです。少し難しい概念ですが、実世界で考えるとゲームの攻略WikiなどがAffinity Spaceの要素を強く持っています。
Wikiの参加者はあるゲームの攻略という共通のゴールに対して熱意をもっていますし、ゲーム内でしか通用しない言葉をよく用いるでしょうし、Wiki内で有名になる方法はレベルアップに必要な経験値量の整理や隠しアイテムの発見など多岐に渡るでしょう。ゲームのWikiという空間はまさにAffinity Spaceです。逆くにあまりAffinity Spaceの要素を持っていないのが学校であると叶さんは主張されていました。
少し難しい概念の内容でしたがとても分かりやすくまとめられていて、今後の研究に活かせそうな概念を1つ知ることができました。
研究員発表 財津さん
今回は財津さんの進められている研究のうち、「子供たちのルールに対する態度に関する探索的研究」と「ボードゲームの学びに関する評価」の2つの研究内容のご紹介でした。
「子供たちのルールに対する態度に関する探索的研究」は、創造性に関する理論である4c理論を背景に、mini-cからlittle-cやpro-cへの変容をルールに対する態度から捉えられないか?という仮説から、ボードゲームを遊ぶ・作る活動をビデオで記録して、ビデオ録画から典型的な場面を抽出してルールに対する態度を特定するという方法で創造性の変化を捉えるという研究内容でした。
「ボードゲームの学びに関する評価」は、各ボードゲームがどんな学びを含んでいるかを明らかにするという内容で、ボードゲームをすることの良さの証明という関心から行われている研究です。この良さとは、個別具体的なボードゲームが持つ固有の学びの証明ではなく、ルールへの態度の獲得・変容という形で表現される良さのことであると説明されていました。
2つの研究とも、研究結果がとても大きな意味を生み出しそうであると予感される研究内容でした。扱われている理論もとても興味深く、特に前者の研究の4c理論は自分の研究にも活かせそうな内容であったためこれから自分でも詳しく調べてみようと思います。
以上が5月26日のゼミ内容の報告です。