投稿日時:   2024-10-14   投稿者:   inuda

SF作品を作ろう!「ゲームを基盤とした社会」を創造するワークショップ  報告記事

みなさん、こんにちは!
修士2年の犬田悠斗です。今回は、8月・9月の「ゲームの遊びと学びの未来シンポジウム」で行った<SF作品を作ろう!「ゲームを基盤とした社会」を創造するワークショップ>の報告記事です。ぜひ最後までお読みください。

■企画背景

タンパク質の構造予測を行うパズルゲーム『Foldit』など、遊ぶことで社会貢献できるゲームが開発されています。もしこれらのゲームが流行し、多くの人がゲームを通して世の中の発展に寄与する未来が訪れたとすると、社会ではどのような良いこと・悪いことが起こるのだろうと疑問に思いました。

そこで、SFプロトタイピングという、「サイエンス・フィクション的な発想を元に、まだ実現していないビジョンの試作品=プロトタイプを作ることで、他社と未来像を議論・共有するためのメソッド」(宮本他, 2021)を用いて、参加者の方にそのような未来を創造してもらうワークショップを実施しました。

■どんなワークショップ?

このワークショップでは、参加者の方に、「ゲームを基盤とした社会」をテーマにしたショートショートを作成してもらいました。「ゲームを基盤とした社会」とは、多くの人がゲームを通して世の中の発展に寄与する社会のことです。

このワークショップは、「1.設定資料の作成(20分)、2.ブラッシュアップ(20分)、3.執筆(10分)」の大きく3つのステップに分かれています。設定資料の作成では、まずテーマである「ゲームを基盤とした社会」の説明を行いました。その後、そのテーマを基に、ネタ出しを行っていただき、題材を決定してもらいました。題材が決定したら、それに合ったキャラクターとストーリーの作成を行ってもらいました。

ブラッシュアップでは、まずグループを作ってもらい、その後1人1人設定資料の発表をしてもらいました。各発表後、聞き手には設定資料を褒める、もしくは深堀りしてもらいました。

執筆では、参加者の方に作成していただいた設定資料を、生成AIであるChatGPTに読み込ませ、ショートショートを作成しました。1時間と限られた時間であったため、このワークショップでは1つの作品のみデモンストレーションとして執筆を行いました。以下で、長崎のワークショップを通じてできた作品を紹介します。

■作品

・THIS ゲームコミュニケーション(リアル農夫ホウメイ)

 レンは東京の片隅で地道な作業を続ける考古学者だった。社会は完全にゲームに依存し、人々は日々の活動をゲームとして競い合っていた。ゴミ拾いから環境保全、さらには政治活動まで、全てがゲーム化され、その貢献度がポイントとして可視化される世界。高ランクのバッジやメダルを持つ者は多くの尊敬を集め、生活が優遇される。しかし、レンのように泥臭い発掘作業や一次産業を担う者は、ゲームで評価されない「ランク外」の存在として扱われ、軽視されていた。

 レンの手はいつも土と埃にまみれていた。古代の遺跡を掘り起こし、かつて人類がどう生き、どう繁栄していたのかを知るための手がかりを探していたが、そんなことに興味を持つ者は少なかった。周囲の人々はレンを哀れむか、侮蔑の目で見つめるだけだった。「そんな無駄なことをして何になる?ゲームでポイントを稼げば、もっと簡単に名声が手に入るのに」と言う者さえいた。

 しかし、レンは考古学こそが人類の未来を救うと信じていた。社会が完全にゲームに依存している今、彼はそのゲームの先にある破綻を予感していた。歴史を紐解くことで、かつての文明がどのようにして崩壊し、またどのようにして復興してきたのかを学び、再び訪れるかもしれない崩壊に備えようと考えていた。

 ところが、どれだけ調査が成功しても、誰も見向きもしない。逆に、ランク外であることを理由に、レンは危険な目にあうことが多くなった。ある日、遺跡からの帰り道、彼はゲームランカーの一群に絡まれた。「お前のような無駄な人間は社会の邪魔だ」と言われ、追い詰められた。命を奪われる寸前、突然の大きな轟音が街を揺るがした。

 空を見上げると、太陽が異常な輝きを放っていた。その瞬間、全てのデバイスが一斉に機能を停止し、世界中のITインフラが崩壊した。ゲームで支えられていた社会は一瞬にして機能不全に陥り、混乱が広がった。

 人々は何もできなくなり、パニックに陥った。しかし、レンだけは冷静だった。考古学で学んだ知識を活かし、過去の文明がどうやって自然の力と共存してきたのか、そしてどのように復興してきたのかを伝え始めた。かつて軽視されていた彼の知識は今や価値を持ち始め、人々は彼に助言を求めるようになった。ゲームが支配していた社会は崩壊し、人々はレンの手によって新たな生活を取り戻し始めた。

 レンは冷ややかに微笑んだ。
「世界はいつも同じことを繰り返す。だが、今回はどうかな?」
彼の貢献度は、もはやゲームには表示されなかった。それは、実際の世界に刻まれた。

・Under Game(ペンネーム:まさのり)

 ケンタは、社会において成功を約束されたエリートだった。ゲームによって社会貢献が測られるこの時代、彼の目標は明確だった。ネオゲームセンターで提供される社会貢献型のゲームをこなし、ポイントを稼ぎ、ランクの高いバッジやメダルを手に入れること。そうすれば、さらに多くの尊敬を集め、社会的地位が揺るぎないものとなる。

 ある日、ケンタはいつものようにネオゲームセンターに足を運んでいた。貧困問題を解決するためのパズルゲーム、環境保護をテーマにしたアクションゲーム。すべてが社会的意義を持ち、プレイするたびにポイントが蓄積されていく。しかし、その日はなぜか彼の心が浮かない。ルール通りに生きることがどれだけ正しいのか、自分でも分からなくなってきたのだ。

 そんな時、ケンタはふと気づいた。ネオゲームセンターの裏側に、古びた扉がある。妙な好奇心に駆られ、扉を押し開けた。その先には、暗がりの中で静かに動く機械、そして数人の男たち。驚いたことに、それは今では違法とされる、娯楽のためだけのゲームを遊ぶ場だった。

「ここでやってるのは、社会に貢献しないゲームだ。無意味な勝負ごと、ただの時間の浪費だ。」
男の一人がそう言って笑った。

 ケンタは不快感を覚えた。この社会では、娯楽のためだけのゲームは無意味であり、禁止されている。人々の時間は社会のために使われるべきであり、それ以外は無駄だと教わってきた。だが、彼は一瞬、躊躇した。そして、そのゲームに手を伸ばしてしまったのだ。

 プレイは簡単だった。目の前の画面に次々と現れるキャラクターを倒し、得点を重ねる。それだけだ。だが、そのシンプルさが不思議な快感を与えた。意味もなく勝つだけのゲームなのに、彼の心は激しく動揺した。社会に貢献するゲームとは違い、何の責任もない。ただ達成感と快楽だけが残る。

 数日後、ケンタは再びその裏の世界に足を運んでいた。彼の内心は苦悩で揺れていた。自分は今まで何のためにゲームをしてきたのか?社会的な評価を得るために、ポイントを稼ぐために生きてきた。だが、この無意味なゲームは、なぜか深い満足感を与えてくれる。

 彼は迷い始めた。社会貢献のためのゲームと、ただ楽しむためのゲーム。一体、どちらが本当に価値のあるものなのか?自分が生きているこの社会は、本当に正しいのか?

 そんなある日、ケンタは違法ゲームの場である男に話しかけられた。男は静かに笑いながら、ケンタにこう言った。
「ポイントを稼ぐことで尊敬を得る?バッジやメダルが手に入る?それが君に何を与えてくれるんだ?」

 ケンタは凍りついた。社会貢献ゲームがすべてだと思っていた自分が、ただシステムに操られていただけだったことに気づいたのだ。

 彼はついに知った。かつて、社会はもっと自由だったことを。ゲームはただの遊びであり、楽しむことが目的だった時代があったことを。しかし、現在ゲームは社会を管理するツールになっている。ケンタはすべてを理解した時、社会から消え去るように、その裏の世界に完全に身を委ねた。

・子の成長(ペンネーム:伊藤大海)

太一は、ゲームが禁止された家庭で育っていた。友達が楽しそうに最新のゲームについて話す中、彼だけがその話題に加われないことが、次第に辛くなっていた。そんな時、「社会貢献ゲーム」というものが流行し、それを通じて様々な社会問題が解決されだした。太一は、ふと良いアイデアを思いついた。

「社会貢献をしながらゲームをするなんて素晴らしいじゃないか!」

 太一は、これなら親も納得してくれるだろうと思い、親にプレゼンを行うことを決心した。

「お母さん、お父さん、話があるんだ」

 ある日、太一は緊張した面持ちで両親の前に立った。彼の目には強い決意が宿っていた。彼は、社会貢献ゲームのメリットを次々と挙げた。ポイントを集めることで、地域清掃やリサイクル活動に貢献できる。さらには、ゲームのランキングで上位に入ると、学校で表彰されたり、名誉あるバッジがもらえたりする。

「それにね、僕もこれを通じて、他の子と同じように楽しみたいんだ」と太一は言った。

 しかし、両親の顔は渋いままだった。

「ゲームはやっぱり良くない。社会貢献ゲームだとしても、それに夢中になって他のことを疎かにするかもしれない」と母親が言う。

「その通りだ。何度も言ってきたが、ゲームなんて時間の無駄だ」と父親も続けた。

 太一はがっかりした。しかし、彼は諦めなかった。次の機会に、もっと説得力のあるデータや資料を集めて、もう一度挑戦することにしたのだ。それから数週間、太一はゲームに関する論文やデータを読み漁り、より洗練されたプレゼン資料を作成した。そして再び、両親の前に立つ。

「僕はただ遊びたいわけじゃないんだ。これを通じて社会に貢献したいんだよ。それに、データによれば、社会貢献ゲームをやっている子どもたちは成績が上がる傾向にあるんだ」

 プレゼンは以前よりも格段に上手くなっていた。両親も少しは興味を示し始めたように見えたが、それでも決定打にはならなかった。何度も何度も繰り返し、太一は挑戦した。親もその度に応じてくれた。徐々に、彼のプレゼンは緻密で説得力のあるものとなっていき、最終的には両親も深く考え込むようになった。

 そして、ついに父親が口を開いた。

「太一、よく頑張った。お前の言うことも一理ある。だが、今度は別の考えが浮かんできたんだ。お前はここまで自分の考えをしっかり持って話せるようになった。それに、社会のことも考えている。これからはもっと高度なことに挑戦してほしいと思っているんだ」

 太一の期待は膨らんだ。ついに許される時が来たのだろうか?

 しかし、その瞬間、父親は予想外の言葉を続けた。

「ゲームは禁止のままだ。だが、その代わりに、お前のその能力を活かして社会のリーダーを目指してほしい。ゲームなんかに時間を費やすより、もっと大きな貢献ができるだろう」

 太一は愕然とした。彼のプレゼンは成功したどころか、逆に両親の期待をさらに高める結果となり、ゲームをする夢はますます遠のいてしまった。そして、社会貢献ゲームではなく、現実での「貢献」を求められる日々が始まったのだ。

・Justice Games(ペンネーム:ロイ・たこやき)

 ジャスティス・キングは、教師として、常に子どもたちが社会に役立つ人間になるよう、教育に力を注いでいた。社会貢献のゲーム「Justice Game」が普及し、誰もがゲームを通して社会問題を解決できる時代になっていた。ポイントを稼ぎ、バッジやメダルを獲得することで、社会に貢献した証を得るのだ。ジャスティスもその一人で、教師としての指導や日々の行動でポイントを稼ぎ、既に数々のバッジを手にしていた。

 ある日、ジャスティスは放課後の街で、若者が喧嘩をしている場面に遭遇した。殴り合いをしている少年たちをなだめ、諭し、悪い行動を正した。彼はその行動によってさらにポイントを稼ぎ、新しいバッジを獲得した。「これで、また一つ社会が良くなった」とジャスティスは満足げに思い、周囲からも尊敬の眼差しを向けられる。

 そんな彼に、突然の出会いが訪れる。トゥルース・クイーンという海外の美しい女性だ。二人は急速に親密な関係になっていった。だが、トゥルースは何も言わずに彼の前から姿を消した。彼女の故郷に帰ってしまったのだ。ジャスティスは困惑し、彼女を忘れることができなかった。そして、彼は決意を固め、彼女を追ってその国へ向かうことにした。

 彼はその国に入国するやいなや、突然捕らえられ、投獄されてしまった。訳が分からないまま彼は牢の中で思い悩んだ。なぜ、自分がこんな目に遭うのか。やがて、彼は国のルールを知ることになる。この国では、彼の信じていた「Justice Game」とは全く異なる価値観が存在していたのだ。

 その国では、殴ることが推奨され、他者を強くするための行為とされていた。暴力が美徳とされ、社会貢献の一環として行われていたのだ。彼が止めた行為こそ、ここでは正義だった。そして、トゥルース・クイーンは、ジャスティスの信じていた「正義」が、この国では愚かで無意味なものだと理解していたのだ。

 ジャスティスは、自らの信じていた「社会貢献」とは何だったのかを問わざるを得なかった。どこまでが正義で、どこからが悪なのか。その境界は、国や文化によってこんなにも変わるのか。彼は初めて、自らの信念が完全に崩壊したことを悟った。

・田中の物語(ペンネーム:H.Y.)

 田中太郎は、東京に住むごく普通の学生だった。しかし、彼には大きな夢があった。社会において最も名声高く、尊敬される企業「ブラック」に入ることだ。「ブラック」は、ゲームによる社会貢献で圧倒的な地位を築き上げ、社員は皆が憧れる存在となっていた。

 田中も、毎日ゲームを通じて社会に貢献していた。ゴミ拾いや環境保護活動、地域の清掃など、ゲームを介してポイントを稼ぐことができ、それが社会的な地位や尊敬へと繋がる。田中は、ひたむきに努力を重ね、ポイントを積み上げていった。彼の胸には、数々のバッジやメダルが輝いていた。

 ある日、田中は偶然、近所のゴミ捨て場で「ブラック」のバイトがゴミをまき散らしている場面に出くわした。彼は目を疑った。あれほど社会貢献を謳う企業の社員が、そんな不正を働いているなんて。「これは誤解だろう」と最初は思ったが、明らかに意図的な行動だった。田中は勇気を出して注意しようとしたが、バイトは冷笑を浮かべた。

「お前、知らないほうが身のためだぞ。」
その言葉が妙に胸に残った。

 数日後、田中は「ブラック」の暗い裏側に気付いてしまった。ゴミ捨て場での一件が気になり、調査を進めると、表向きの社会貢献とは裏腹に、企業は闇のビジネスを展開していたのだ。田中が真実を訴えようとしても、「ブラック」の社会的な影響力が強大すぎて誰も信じてくれなかった。むしろ、田中が悪い噂を流していると逆に批判されてしまった。

「このままじゃ、僕が消される…」田中は焦りを覚えた。

 田中は5人の仲間を集め、ゲームによるポイント稼ぎに全力を注ぐことを決意した。彼らは災害支援や海外ボランティアにまで手を伸ばし、ポイントを集めていった。だが、その活動は決して順調ではなかった。仲間のうち1人が、ある日突然消息を絶った。彼は「ブラック」の仕業だと噂された。さらに、残された2人の仲間がスパイであることが判明し、田中の活動は大きな打撃を受けた。

「もう何もかも無駄なんじゃないか…」田中は心が折れかけていた。

 だが、驚くべきことが起きた。消されたと思われていた仲間が実は生きていたのだ。彼は巧妙に「ブラック」の目を欺き、死んだふりをしていたのだ。そして、その間に「ブラック」の不正行為を記録した動画を撮っていた。その映像は瞬く間に拡散され、田中たちは一気にポイントを獲得した。

 その結果、「ブラック」は社会的に破滅した。企業は倒産し、社員たちは街から姿を消した。田中はついに自分の手で正義を成し遂げたのだ。しかし、田中が得たものはほんの一時の達成感だけだった。社会はすぐに新しい英雄を探し始め、田中の功績は徐々に忘れ去られていった。

・HIPPOPOTAMUS(ペンネーム:おーつ)

イオリは長崎県の動物園でカバの飼育員として働いていた。カバたちは彼の生活の中心だったが、最近はもう一つの情熱が加わっていた。それは「ゲーム」。今や、社会全体がゲームを通して社会貢献を行い、ポイントを集めることで報酬が得られる時代。学校や職場でも、誰がどのバッジを持っているかが話題になり、社会的な地位を決めるほどだった。

 イオリもその熱狂にのめり込み、夜になるとゲームの世界に飛び込んでいた。カバの世話が終わると、すぐに家に帰り、画面の向こうのモンスターを次々に倒してポイントを稼ぐ。最初は簡単だった。敵は単純で、攻略法もすぐにわかった。

 ところがある日、ゲーム内で突然異様に強いモンスターが現れた。これまでのモンスターとは次元が違うほどの力を持っており、どれだけ攻撃してもまるで歯が立たない。そのモンスターに倒されると、ただのゲームオーバーでは済まなかった。現実でも、事故や病気で命を落とすプレイヤーたちが次々と報告されるようになったのだ。

「おかしい…こんなことは聞いていない…」

 イオリは恐怖に震えた。ゲームをやめれば安全だろうと思ったが、既に彼はその世界に取り憑かれていた。そして、ただ逃げているだけでは他のプレイヤーたちが危険にさらされる。イオリは意を決して、その恐ろしいモンスターに再び立ち向かう決意をした。

 調べを進めるうちに、その強大なモンスターは、ゲームを設計したデザイナー自身が意図的に仕込んだものだと分かった。社会にゲームが浸透しすぎ、世界そのものを操る力を持つまでになっていたゲームデザイナーは、自分自身を最強のモンスターとしてゲーム内に登場させ、誰にも勝てない絶望感を植え付けることで、全てを支配しようとしていたのだ。

 イオリは何度も挑んだが、結局彼の力では太刀打ちできなかった。諦めかけたその時、突如ゲーム内に現れた強大なプレイヤーが、モンスターに立ち向かい始めた。そのプレイヤーは誰も知らない謎の存在だったが、その圧倒的な力でデザイナーのモンスターを次第に追い詰めていった。

「いったい、誰なんだ…?」

 イオリはその背中を見つめながら、共に戦い続けた。そしてついに、モンスターは倒され、ゲームの支配は終わった。社会は再び平和を取り戻し、ゲームも日常の一部として続いた。しかし、その謎のプレイヤーの正体は明かされないままだった。

 現実に戻った彼は、いつものようにカバたちの世話を始めた。その時、ふと自分が飼っているカバを見つめた。何かが違う――彼は確信した。このカバが、あの強いプレイヤーだったのだ。カバは彼に一瞥を送り、どこか満足そうに鼻を鳴らし、黙々と水辺を歩き続けていた。

・ヒエラルキー・ワールド(ペンネーム:トモヤ)

 ラッキーは、ゲーム社会の底辺にいた。学生の彼は、授業が終われば家に戻り、小さなデバイスを手に取りログインするのが日課だった。彼が生きるこの世界では、ゲームを通じて社会貢献ができ、その結果として多くの問題が解決されている。プレイヤーはゲーム内で稼いだポイントでバッジやメダルを獲得し、バッジの多さがそのまま社会的な尊敬につながる。ラッキーもいつか、そんな高いランクにのぼりつめたいと思っていた。

 だが、現実は甘くなかった。彼はまだLv.1。スキルも乏しく、やっとの思いで小さなクエストをクリアしては、わずかなポイントを稼ぐのが精一杯だった。デバイスを通して周囲の プレイヤーのステータスが見えるが、皆が持つ煌びやかなバッジやメダルがまぶしく感じられ、彼は劣等感を抱くばかりだった。

 そんなある日、同じような境遇にいる仲間と出会った。彼らもラッキー同様、下位ランクのプレイヤーで、バッジは一つも持っていない。だが、彼らは明るく、互いに切磋琢磨し合い、いつかこのゲーム社会の頂点を目指そうと決意していた。

 ラッキーも彼らと共に少しずつ成長していった。クエストをこなし、ポイントを稼ぎ、バッジも増えた。バッジが増えるごとに、現実世界でも少しずつ尊敬を集めるようになり、彼は自分が変わっていくのを感じた。

 しかし、平和な日々は長くは続かなかった。ある日、悪名高い「プレイヤーキル集団」が彼らを襲ったのだ。彼らは高ランクプレイヤーを憎み、無差別に攻撃を仕掛けてくる存在で、ゲーム内での成長を破壊することを楽しんでいた。ラッキーの仲間もその標的となり、一人、また一人とゲーム内で殺されていった。ゲームでの「死」は、現実の評価にも直結する。彼らは尊敬を失い、社会の底辺に転落していった。

 ラッキーは絶望した。仲間が次々に消えていく中、自分一人が生き残っても何の意味があるのか?だが、彼は諦めなかった。自分が強くなれば、この悲劇を止めることができるかもしれない。ラッキーは、より困難なクエストに挑み、スキルを磨き続けた。そしてついに、ゲーム社会のトップクラスに到達した。

 頂点に立ったラッキーは、「プレイヤーキル集団」を壊滅させ、多くの報酬を手にした。人々からは尊敬され、憧れられる存在となった。彼は仲間を失った悲しみを乗り越え、今や多くの人々に希望を与える存在として成長していた。

■振り返り

このワークショップでは、SFプロトタイピングという手法を用いて、「ゲームを基盤とした社会」に関するショートショートを作成することができました。これらの作品を通じて、「ゲームを基盤とした社会」における様々な問題や人々が持っている価値観などを、具体的に想起しやすくなったと感じます。

また、SFプロトタイピングは、小説家とコラボレーションして行われることが多いですが、このワークショップでは、執筆作業をChatGPTに代替させることで、開催コストの削減を目指しました。個人的な感想としては、この試みも一定の成功を収めることができたと思います。

今後の課題は、テーマをより明確にすることです。「ゲームを基盤とした社会」というテーマが抽象的で、想像の余地がありすぎたため、参加者によって解釈の幅が広くなりすぎました。また、ストーリーの作成方法についても、具体的な作品などを交えてより詳細に説明する必要があったと思いました。

【参考文献】
宮本道人(監), 難波優輝, 大澤博隆(編).(2021). SFプロトタイピング: SFからイノベーションを生み出す新戦略. 早川書房

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以上が、<SF作品を作ろう!「ゲームを基盤とした社会」を創造するワークショップ  報告記事>になります。また次回の記事もお読みいただけると嬉しいです。
それでは!!!

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カテゴリー:   Lab news     作成者:   inuda   パーマリンク