月別アーカイブ: 2022年11月

【11月17日】ゼミ活動報告

皆さんこんにちは。外国人研究生の蔡です。

最近、寒いですが、いよいよ秋の感じが強くなりますよね。

東京大学本郷キャンパスの正門に入って、銀杏並木の黄葉は綺麗です。

葉を散らしている

さて、今週のゼミ報告に移りたいと思います。今回は文献研究(升井さん)と事例研究(春口さん)とプレイセッション(木村さん)でした。

・文献研究 「研究テーマ関連論文の概要紹介」 升井さん

升井さんは、研究テーマ関連論文2つをご紹介してくださいました。

一つは、英語文献「Toward Truly Accessible MOOCs For Persons With Cognitive Impairments A Field Study」です。障碍者と非障碍者の離脱率の違いを測定することで、ビデオ学習においてユーザーにカスタマイズの権利があることが大切だということをわかりました。これも、升井さんの修論と同じ主張をしています。

そして、論文の実験結果から見ると、障碍者と非障碍者による履修の脱落率の違いはなかったという結果をわかりました。

もう一つは、「日本における自己調整学習とその関連領域における研究の動向と展望」です。この論文を通じて、自己調整学習という今後の研究の方向性を明らかにする概念をわかりました。

自己調整学習とは、

①メタ認知:獲得したカスタマイズアイテムを俯瞰して学習履歴を認知

②動機づけ:自己決定理論にもとづくモチベーションの維持

③学習方略:自分に適したシステムデザインで自らの学びに責任を持つ

それで、今後の自己調整学習研究の方向性は以下の2つが有力である。

①理論をもとに実践を創る研究

②理論をもとに実践を切り取る研究

最後に、升井さんは、「Readable」というpdf翻訳工具をご紹介してくださいました。とても便利なので、助かりました。

・事例研究 「ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」 春口さん

春口さんは、任天堂より製作された『ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング』という言語を使わずにゲームプログラミングのゲームをご紹介してくださいました。

このゲームに対して、学習の観点から見ると、良いところは、

①言語感の無いシステム

②アイデアを思いつくから完成までのプロセスが早い

一方で、悪いところは、

①ゲーム作成に必要なテクニックは学べない

②ゲームの規模に制限がある

以上のようにまとめると、みなさんがよく注目のポイントは、ゲーム自体で自己完結しているのでその後への繋がりをどうするかが学習ゲームとしての課題である。

・プレイセッション 「手続き記憶としてのコマンド入力」 木村さん

木村さんは、記憶の種類の中で、非宣言的記憶の一種としての手続き記憶をテーマにして、今回のプレイセッション「格ゲーのコマンド入力の習得に挑戦!」をいただきました。

手続き記憶とは、自転車の乗り方、キーボードの入力、ビデオゲームの操作など繰り返し訓練することによって自動化や無自覚化が進んで、いったん十分な水準で獲得されると長期間にわたって忘却されにくいということです。

これによって、今回のプレイセッションで、『ソウルキャリバー V』という格闘ゲームの中で、みなさんは「波動拳!」(↓↘→+ボタン)というスキルの入力を一緒に挑戦してみるという感じになりました。

プレーするルールは、「波動拳!」の練習と挑戦を10回ずつで、可能な限り技を繰り出します。そして、皆さんは二つのチームに分けて、達成数が多いチームは勝利になります。

プレーする時間は早いですけど、非常に楽しかったです。

このように、結果を見ると、やったことがある人とやったことがない人も、コマンド入力は意外と難しいです。そして、操作の方法の説明も伝わりにくいということを感じました。最後に、「↓↘→+○ボタン」を手続き的記憶として定着させたプレイヤーは「↓↘→↓↘→+○ボタン」などのより複雑なコマンド入力をより早く習得すること、つまり、正の転移があるということをわかりました。

今回の報告は以上になりました。

最後までお読みいただきありがとうございます。それでは、また来週!

【10月20日】ゼミ活動のご報告

皆さんこんにちは。M2のイェです。
最近は寒くなってきて、本郷の並木は黄色に染まっているところです。
今回のゼミは、初めて情報学環本館の教室で行われました。
高層なので秋の午後の青空と日暮れを満喫しました。

教室から眺められた景色!きれい!

本題に戻りますが、今回のは升井さんと自分の事例紹介とサイさんの進捗報告でした。

・「桃太郎電鉄教育版」(升井さん)

升井さんは自分のTGS2022とEDIXオンラインの経験を踏まえて、長年に日本で愛されてきた「桃太郎電鉄」シリーズの教育版を紹介しました。今冬リリースする予定で、その特徴としては、ブラウザ環境、教育現場に導入無料、普通版と比べて学習に適している内容や機能の追加(*)などが挙げられます。

* 具体的には①地方を限定してプレイ、②情報の補足的表示、③先生側のコントロール、④「貧乏神」の排除などがあります。

升井さんは、一般人と社会科教員の意見のレビューも共有してから、最後にはゼミがチームに分けて、「教育版ならではの新たな機能を追加するなら何を入れるか?」というテーマでディスカッションをしました。提案のまとめは以下になります。

  • 学習効果を測れる機能 
  • レベルアップ、バッジ 
  • 図鑑をつくる機能
  • 駅の物件を追加する機能
  • 過去の地図でも遊べる機能 変遷機能

・「Disco Elysium」(叶)

夏休みの時にプレイした積みゲーであり、110万ワードがある刑事物語アドベンチャーRPGの「Disco Elysium」をメイン事例として紹介しました。

自分的に思う本作の良い点としては、芸術性が高い、テキストベースのわりにはインタラクションが多くて自由度が高い、サイコロを振るという運的な判定で即時的なフィードバックをもらえるなどが挙げられます。

また、(研究テーマ的に)最も重要なのは多国語対応で言語学習のためにも役立つという点です。「L」ボタンで簡単に言語を切り替えられる英語のフルーボイズ付いているといった機能がゲームの学習効果を高めたと考えられます。

私はプレイする時には中国語をメインでプレイし、時々原文の英語に切り替えて照らし合わせるようにしていました。ゼミでは今までの研究でM-GTAで生成した概念を自分の体験で説明してみました。


・蔡さんの進捗報告

蔡さんは「歴史教育ゲームの開発 -洛中洛外図屛風絵のシリアスゲーム化-」という新たな研究テーマを提案しました。

洛中洛外図屏風は、京都の市街(洛中)と郊外(洛外)の景観や風俗を描いた屏風絵です。蔡さんは、洛中洛外図屏風をモチーフにしたゲームで遊ぶことを通じて、歴史場所や歴史人物などの知識を勉強すると考えています。そのアイデアに基づき、ゲームのデモを制作して建築と人物のモデリングを報告しました。ゼミメンバーがその制作の素早さと完成度の高さに驚きました。

その後のディスカッションでは、皆さんが蔡さんの研究テーマに対して問いを投げました。「誰かにどのような場面でプレイするのか」、「どのような内容を勉強するのか」、「ゲームをどのようにプレイするのか」、「それがどのように学習と繋がるのか」など、研究計画をさらに明らかにする際に答えなくてはならない質問がたくさん挙げられました。これらの問いに対して、蔡さんの今後のご報告を楽しみしております。

今回の報告は以上でした。最後までお読みいただきありがとうございます。また来週!

(ちなみに、「Disco Elysium」はSTEAMでセール中ですので興味がある方はどうぞ…

【5月12日】ゼミ活動のご報告

皆さん、久しぶりです。M2の叶です。

早速、先週のゼミ活動についてご報告いたします。
今回は私と大空さんの事例研究と、木村研究員の研究発表の回でした。

大空さんは、ゲームマーケットで購入した『社畜牧場』というボードゲームについて紹介しました。このゲームではプレイヤーが「社長」となり、「社畜」を使って自社の「株価」の上昇を目指す対戦し、ワーカープレイスメントというメカニクスでゲームを進めます。

ワーカープレイスメント:プレイヤーが自分のポーン(ワーカー、労働者)をアクションスペース(建物)に配置することで、ターンオーダーでアクションを選んでいく

大空さんはゲームの構造を踏まえて、『社畜牧場』の遊びにおいては派遣や収益を高めるための経営のプロセスが表れると分析し、今後の人材育成類ボードゲームの制作において「ワーカープレイスメント」の活用の可能性、プレイヤーの当事者意識を入れるなどを検討しました。

自分は「Game2Text」という、GITHUBで無料に配布されたオープンソースのゲームでの外国語学習のため活用できるツールキットを取り上げました。基本機能としてはOCRでゲームのスクリプトを特定し、アドオン辞書と組み合わせてゲームテキストを簡単に調べたり翻訳したりすることができ、単語帳アプリと連携することで暗記カードを簡単に作れます。

「Game2Text」はゲームを活用した外国語(特に日本語)の学習と復習には有用性が高いと考えられます。しかし、今のバージョンだとOCR機能にはまだ正確性に欠ける、インストール・利用する際のハードルが高いなどの課題点により、学習ギーク・ゲームギーク・パソコンに一定程度詳しい説明人でなければ、利用するモチベーションが低いとも考えられます。

最後に、木村さんの「ゲームと人を対象とした心理学研究の方法とその範囲」というテーマで発表しました。木村さんは、Schellの『ゲームデザインバイブル』の中で心理学について説明している項にある行動主義派と現象学派の切り分け方を批判し、心理学では質的なアプローチも多く用いられてきたことを強調しました。その後は、「即時的な反応を要求するゲームとその熟達が感情経験に与える影響」(木村, 2020)における実験の例を挙げ、「感情の円環モデル」についても説明してくれました。

その時就活に苦戦していた自分は、「疲れた」と「警戒した」という複雑の感情に陥って、ただ一つのモデルはまだ説明しきれない部分があるだろうと思っていました。皆さんはこの記事を読む時は、どのような「感情」にいるのでしょうか?

では今回はここまでです!次回は対面の回で、初めて新入メンバーと会う回ですので楽しみしています!皆さんもぜひ次回の記事を楽しみにしてください〜

  • 木村 知宏 (2020). 即時的な反応を要求するゲームとその熟達が感情経験に与える影響デジタルゲーム学研究, 13(1), 21–29.
  • Russell, J. A. (1980). A circumplex model of affect. Journal of Personality and Social Psychology, 39, 1161–1178.

【5月13日】ゼミ活動のご報告

いつもお世話になっております。M1の叶(イェ)です。
5月に入り、東京は暖かくなりましたね。緑にあふれたキャンパスで対面のゼミができないのは残念ですが、早速、今週のゼミ内容について報告させていただきます。

今週のゼミは、事例研究(叶、升井さん)と研究テーマの関連論文3本概要紹介(K.I.さん、張さん)という流れで行われました。

・事例研究(1)-「Word Castle」(担当:叶)

2018年に2人の開発者により作られた、中国のある英単語学習系インディーゲームです。「Word Castle」は実は「ローグライクゲーム」と「英単語ドリルアプリ」の融合だと思われます。基本的なルールとしては、語彙力(単語を覚えるの)がゲーム進行の必須条件(手段)になり、ゲームを楽しみながら英語の語彙力を身につけることができます。

ゲームのレビューを分析してみたところ、ゲームの形より、学習のデザインの厳密性や効率性がプレイヤーに懸念されていることがわかりました。「World Castle」のような学習ゲームは、学習に関する部分がさらによくデザインされれば、未来のいいシリアスゲームになるのでしょうか?

・事例研究(2)- 「Geoguessr」(担当:升井さん)

ランダムに飛ばされたGoogle ストリートビューの場所を当てる「地理系シリアスゲーム」です。升井さんは過去の面白いゲーム経験を踏まえて、ゲーミフィケーションカードを使ってそのゲームシステムを詳しく分析しました。

その後、Geoguessrに取り入れられなかった「ロールプレイ要素」を加えるのであればどんなゲームデザインが可能なのか、日常生活でどんなモノがゲーム化できるのかについて皆の意見を交わし、「学術論文を探したり整理したりする際はゲーム化できるのか」についての議論が盛り上がりました。

とても面白いゲームで毎日5回無料で遊べますので、興味がある人はぜひやってみてください!(東大に飛ばされたら安田講堂と駒場キャンパス1号館が似ているのにお気をつけくださいね:D)
https://www.geoguessr.com/

・研究関連論文3本紹介(1)(担当:K.I.さん)

①富田誠, 2019, 「共創の場における視覚的対話手法の比較」『芸術学研究 = Tsukuba Studies in Art and Design』 24 : 31-39.
②伊藤ふみ子・田代和子,2020, 「独居高齢者の社会的孤立に関する文献検討」『淑徳大学看護栄養学部紀要 』12 : 69-77.
③阿部彩,(2019)「包摂社会の中の社会的孤立 – 他県からの移住者に注目して – 」『東京大学社会科学研究所 社會科學研究』 65巻1号, 13-30

社会的孤立に関する2本の論文(②、③)の他に、論文①はデザインゲームの定義、歴史と現状を述べた論文で、まちづくりだけでなく、他の領域のデザインゲームに関する研究でも先行研究として引用できる論文でした。

研究関連論文3本紹介(2)(担当:張さん)

①『The Seeds of Speech』Chapter 2:  5. The Family Tree & 6. A Devious Mind
② Tseng, V., & Fuligni, A. J. (2000). Parent‐Adolescent language use and relationships among immigrant families with East Asian, Filipino, and Latin American backgrounds. Journal of Marriage and Family, 62(2), 465-476.

『The Seeds of Speech』の第2章は言語誕生の仮説、人間に言語が必要な理由、言語がなにかできるのかなどを述べた章で、論文②は移民家族の言語使用状況と親子関係の関連性の実証研究です。どれも言語学に関する興味深い論文で、ぜひチェックしてみてください。

以上は今回のゼミ報告でした。研究室の説明会、皆様のご参加をお待ちしております!