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【11月6日】ゼミ活動のご報告

投稿日時:   2025-11-07   投稿者:   keirinkyou

こんにちは、M1の叶です。今週のゼミ記録を担当します。

今週は、先週お休みだった莫さん、蓮池さん、大空さんの発表が予定されています。どの発表もそれぞれの研究テーマが明確で、議論も熱を帯びた回となりました。


莫さん

最初の発表は莫さん。
教育ゲームの設計と評価を結びつけるためのエビデンスベース設計(Evidence-based Learning Design)を中心に発表が行われました。莫さんは、学習体験を「楽しさ」ではなく「観察・測定・再現の可能なプロセス」として捉え、その中でROI(投資対効果)の考え方を導入することで、教育ゲームをより実践的な研究領域へ拡張しようとしています。

スライドでは、ROIを構成する投入要素(時間・コスト・教材開発資源など)と成果要素(学習成果・行動変容・再利用価値)を対比させ、学習成果の「費用対効果」を明示的に捉えるフレームを紹介。さらに、学習行動のログデータや発話記録を数値化し、ROI算出に活用する可能性を示しました。
また、他の研究者や実践者でも同条件で再実施できるよう、操作マニュアルの整備や評価項目の統一化を提案。これにより、教育現場での実装と研究の再現性を両立することを目指しています。(そういえば、“ROI”という言葉、私はITパスポートの勉強でも出てきました記憶があります。教育分野で出会うと少し新鮮に感じます。)

発表後、藤本教授からはKarl Kappの『Evidence-based Learning and Instruction』の紹介があり、教育工学的な文献背景をより明示するよう助言がありました。さらに、「ROIの視点は研究費申請や社会実装にも有効である」と指摘され、再現性と社会的説明力を兼ね備えた研究設計の重要性が強調されました。
全体として、実証研究と実践教育をつなぐ「橋渡し的」な視点が光る発表でした。


蓮池さん

続いて蓮池さん。
テーマは、ボードゲームを用いた非認知能力の可視化と自己理解の促進。研究の焦点はスキルそのものの向上ではなく、ゲーム体験を通じて参加者が「自分の行動傾向に気づく」ことにあります。
非認知能力を六つの領域(協働性・忍耐・主体性・共感性・計画性・創造性)に分類し、それぞれが発揮されやすいゲームメカニクスを抽出。選定候補のゲームを比較しながら、人数構成・プレイ時間・ルールの複雑さが観察可能な行動にどのような影響を与えるかを整理していました。

また、研究手法として「75分間のプレイ+自己振り返りワーク」を計画し、ゲーム後にBESSI尺度を用いた自己評価を実施。これにより、参加者の行動と心理的傾向の対応関係を分析する設計を示しました。データ収集では観察者評価や録画分析の導入も視野に入れており、定性・定量のハイブリッド的手法が特徴的です。

藤本教授からは、「短時間で非認知能力の変化を測定できるか」という問いが投げかけられ、非認知的スキルは長期育成を前提とするため、短期的測定には限界があると指摘されました。
これに対して蓮池さんは、「本研究の狙いはスキル育成ではなく自己分析の補完」であると補足し、研究目的を「変化」から「理解」へ再整理する方向が確認されました。
さらに、BESSI尺度の文化的適用、Big Fiveとの併用、前後測の順序効果対策なども議題となり、より精緻な評価設計へ向けた方向性が共有されました。


大空さん

最後は大空さんの発表。
防災教育を題材に、カードゲーム『クロスロード』を通じてジレンマ的状況における意思決定と価値観の共有を探る研究を紹介しました。
このゲームでは、災害時に「YES」か「NO」で判断を迫られるカードが提示され、プレイヤーがそれぞれの立場から選択理由を共有します。大空さんは、このプロセスを「現実認識の違いを可視化する学習」として捉え、網代・吉川・矢守(2011)の分類をもとに、『クロスロード』を“プレイヤーがシミュレーション構築の一部を担う思考支援ツール”として位置づけました。

また、田中・竹長(2021)の研究を参照し、災害時のジレンマを「個人対個人」「個人対組織」「個人対社会」の三層構造に整理。社会的ジレンマほど意見の分岐が大きく、そこに“他者と考えを交わすこと”の教育的価値があると説明しました。
防災と研究倫理教育に共通する“正解のない問題を考える”学びの意義を再確認する発表でした。

発表後のディスカッションでは、発話データの分析手法について、藤本教授から「カテゴリー化と文献ベースのラベリングを組み合わせるとよい」との助言がありました。また、「カード情景の再現度」についての意見も出され、より現実的な描写を検討する余地が指摘されました。
研究の焦点を明確にし、データをもとに枠組みを形成する姿勢が重要だという点で、方向性が共有されました。


また、水曜日には研究室の説明会も無事に開催されました。
だんだんと寒くなってきましたので、皆さんどうぞ暖かくしてお過ごしくださいね。